爽やかな五月の気候に、用事を済ませたところで、佐伯祐三展に行こうと思い立ちました。
中之島美術館は二度目となりますが、道に迷いそうな気がして、迷うと観覧時間を奪われてしまうので確実にバスで大阪駅から田蓑橋まで行くことにしました。
わずか10分ほどの短いバスの旅ではありますが、その車窓から見える大阪市内の街並みも捨てたものではないなぁと、強い日差しの中を眩しそうに歩く人たちとその景色を眺めながら、いつもと違った大阪を感じることができました。
バス停からは歩いて1,2分ほど、黒い建物がのそっと顔を出します。
美術館前にあるシンボル的なオブジェであるヤノベケンジの作品を通り過ぎ、中へ入ると館内は吹き抜けとエスカレーターが気持ちよく交差する空間で、その美しい空間にカメラを向ける人も少なくありません。
1928年、わずか30歳の若さでパリで客死した日本の画家、佐伯祐三。
その死を見つめる最後の作品まで作品総数143点の展示となります。
個人的に好きな7作品だけを取り上げてここに記したいと思います。(私は時系列に記しており展示の順とは異なります)
エスカレーターを上り入場すると、早速、今回のタイトルにもある自画像たちが待ち構えます。
NO.009
1924年「パレットをもつ自画像」
佐伯が一回目のパリで描いた自画像です。
同1924年に描かれたNO.010「立てる自画像」
残念ながら、自画像とはいえ顔がシュッと削ったように消されている作品です。
満足のいく作品ではなかったのであろうと中之島美術館の学芸員さんも書かれているように裏に別の絵が描かれています。
渡仏し数ヶ月で、全く違った画風に変化している、彼に何があったのか、パリでのヴラマンクとの出会いが大きな要因であるようですが佐伯の転換点となる興味を惹く面白い作品だと思いました。
渡仏翌年に描かれ、今回の図録の表紙となった作品です。
NO.080
1925年「コルドヌリ(靴屋)」
興味を抱いた対象、同じ題材で何点も描くという佐伯の特徴的な作品の内の一つで、もう一点同じ構図の作品と並べて展示されていました。
私は080の方を写真に収めました。並べられた2点を比較してみるとこちらの方が少し肩に力が入ったような感じがして、一枚目、もしくは先に描かれたのかな、と思ったりしています。壁の色、佐伯の文字、強すぎない黒。
彼が見つめた”経年の美しさ” を感じる作品にとても惹かれます。
NO.089
1925年「広告のある門」
佐伯といえば、広告。パッチワークのように貼られ、雨風に打たれて陽に焼けていそうなポスター。
”少し薄汚れた” 中に"静けさ"を感じる作品だと思いました。
やかましさも理路整然と並べば静けさに変わる、絶妙なゼロの感覚を私にうったえてくる作品です。
NO.108
1927年「バーの入り口」
こちらは、二回目のパリで描かれた作品です。
私の好きな要素が詰まっています。
太めの黒い線、絶妙な白、背の高い扉に貼られた広告の文字の線と疲れた壁の面。
どれだけの人がこの入り口にワクワクしながら通ったのか、中ではどんな会話が飛び交っていたのか、鼻先が赤い千鳥足の男が出てきそうな、そんな想像をさせる魅惑の入り口です。
NO.124
1928年「白い道」
不要なものが削ぎ落とされた、シンプルでエッジが効いている、こんなの描きたい!と強く思わされる作品です。1928年、もう「晩年の作品」と言わなければならない短い画家としての佐伯の生涯に、時代を恨みたくなります。
NO.143
1928年「扉」
ただただ、好きな作品です。
佐伯を象徴するモティーフの扉。佐伯独特の線と面の共演作品だと思います。
柔らかいが少し冷たさを感じる壁の白。全体的に黄色っぽいベースに深い青みがかったモノクロームな作品。
佐伯本人が売らないで、というほど気に入っていた二枚のうちの一枚というだけあって、観るものを魅了する作品だと思いました。
以上、私の個人的な好みに偏る作品の感想をご紹介致しました。そのほか、本人が気に入っていた二枚のうちのあと一枚である「黄色いレストラン」、最後の人物画であるかもしれない「郵便配達夫」、静物画、風景画、たくさん心惹かれる作品があり写真にも収めましたが収拾がつかないので、是非足を運んで実物を観ていただければと思います。
展示は2023年6月25日(日)まで開催中です。
中之島美術館H.P.
自由な線と面だけでなく、 "時の経過"を ”美” と捉える鋭いセンス、その辺りが佐伯祐三作品にわたしが惹かれる理由なのかな、とそんなことを考えつつ、美しい色のカバーに覆われた図録をささと購入し、美術館を後にしました。
風景画が描きたくなりうずうずしながら、大阪の高いビル群に向かい人々の群れの合間をぬって大阪駅まで歩きました。
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